近付かないで・・・。


覗かないで・・・。


何も知らないくせに・・・


わかったように言わないで・・・。















cry.6   〜 Don’t cry 〜















ガラッ!!










「ハァ・・・ハァ・・・」










は学校を飛び出してから1度も足を止めることなく走り続け・・・リョーマの家に帰った。















――― あんたが笑わない理由って寂しいからじゃないの?















「殴る・・・ことなかったか」










リョーマの言葉にカッ!ときた事は確かだが、さすがに殴ってしまったことに は罪悪感を感じた。










「おぅおぅ!何度言ったらわかんだよ!帰ったら「ただいま」だって教え・・・」










玄関までやってきた南次郎は を見るなり目付きを変えた。
は・・・今だに涙を止めることができずにいたのだ。










「・・・どうした?」
「えっ・・・?あっ、なんでも・・・」
「何でもないわけ・・・ねぇよな」










南次郎はしゃがみ込んで と同じ目線になると、ワシャワシャと自分の袖で少し乱暴に涙を拭った。










「可愛い顔が台なしだぜ?」










煙草をくわえたままニカッと笑う南次郎に、 は思わず顔を赤らめた。










「なんか学校で嫌な事でもあったんだろ」










コクンッ・・・。と1つ頷くと南次郎はパンッ!と大きく手を叩いた。










「よぉーし!じゃあ、おじ様がいい所に連れてってやるよ!」
「えっ?」
「動きやすい服に着替えて隣の寺に集合!わかった?」
「えっ?はっ?」
「返事はどうした!!」
「は、はいっ・・・!!」










それから は訳の分からないまま、とりあえずジャージに着替え・・・
言われた通り隣のお寺の階段を上っていった。










「おー。早かったじゃねーか」
「あれ・・・?」










南次郎が煙草に火をつけながら立っていたそこには・・・
寺とは不釣り合いな手作りのテニスコートが存在した。










「ホラよ。お前のラケットだ」
「あ、あの?」
「今から俺とテニスで勝負だ」
「は・・・はっ!?」










かくして南次郎とテニスで勝負することになった
もちろんテニスをやった経験なんてない・・・。










「あの・・・ルールとか」

「とりあえずボールをラケットで打ち返しゃいいよ。1球でも俺の後ろを抜いたらお前の勝ちだ」










ほらよ。と言いながら軽くサーブを打ち出す南次郎。
は一瞬動揺したもののラケットを構えた。










パンッ!!





(おっ♪)










パンッ!   パコッ!!










「いいねぇー。やるじゃねーか」










パンッ!!










「のわっ!?」










褒めた途端、 は見事に空振りしバランスを崩した。










「ハッハッハッ!そうでもねーか!!」
「も・・・もう1回!」
「おっ?やるか!」










それから と南次郎は日が暮れるまでテニスをし続けた。
夕日がオレンジ色になり始めたこと・・・ はコートにペタンッ!と座り込んで息を上げた。










「つ、疲れたぁ・・・」
「まぁまぁ頑張ったじゃねーか。結局1回も抜けなかったけどな?」










ムッ!と膨れっ面をすると南次郎は笑いながら の頭をポンポン叩いた。










「どうだ?暴れ回ったら嫌な事忘れちまっただろ」
「えっ・・・?」










近くにあるベンチに座りながら南次郎さんは私を見てニコッと笑った。










「おら。そんなとこに座ってねぇで隣に来いよ」
「あっ・・・し、失礼します・・・」










風が出てきた。
しかし、汗をかいた私達にとってはちょうどいい涼しさだった。










「嫌な事があった時にはなぁ・・・何かに夢中になるといいんだ。それで1回忘れるといい」
「・・・忘れる?」

「忘れるったって一瞬だけだ。一瞬忘れて・・・落ち着いてからまた考える。
 頭に血が上ったまんまじゃ、まともな考え事なんかできねぇだろ?」










確かに・・・今の私は落ち着いていた。
体を動かしたせいか、何よりスッキリした気持ちだった。










「そして落ち着いたら、誰かに話してみるんだ」
「誰かに・・・」
「俺でよかったら聞くぜ?」










南次郎さんを見ると、ニッ!と煙草をくわえたまま口角を上げて笑った。










「あっ・・・」










温かい・・・。

今、一瞬だけ・・・。心がポッと温かくなるのを感じた。










「大丈夫・・・です」
「そうか?」
「はい。喧嘩・・・しただけですから。ちゃんと謝ります」
「そーかい。頑張れよ」
「はい・・・」










こうして家に帰った私達。
菜々子さんは泥だらけの私を見て凄く驚いていたけれど・・・。

南次郎さんとテニスをした。楽しかった。と言って少しだけ笑って見せたら
嬉しそうに私を抱きしめてくれた。










この家族は本当に温かい・・・。


私じゃ火傷しそうなほど温かく・・・優しい・・・。










ガラッ!!










「ただいま」










とりあえず・・・。

その優しさに気付かず、殴ってしまった彼に・・・謝らなければ。















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

南次郎おじ様好きー。

あ、ヒロインが顔を赤くするのは別に

そういう趣味ではありませんので!!

断じて!!(必死)







2009.4.11