泣けば楽になることは知ってる。
でも、そんな時に限って・・・
涙って流れてくれないの・・・。
cry.4 〜 Don’t cry 〜
越前は部活があるから帰りは私よりずっと遅い。
私は一足先に越前の家に帰ると1番最初にカルピンがお出迎えをしてくれた。
「ほぁら!」
「・・・ただいま・・・かな?」
人の家なのに「ただいま」はおかしいか。
ここは「お邪魔します」の方が・・・?
「おーぅ。おかえりー」
部屋の奥から南次郎さんが顔を出すと私は小さく頭を下げた。
「あ?家に帰って来たら「ただいま」だろ。忘れちまったのか?」
少し・・・焦った。
南次郎さんはくわえていた煙草を指に挟むとニヤッと笑って見せた。
「昨日からお前の家はここだって言ったろ。だから帰ったら「ただいま」だ。ホレッ」
「た、ただいま・・・帰りました」
「おう。おかえり」
今度は優しく笑う南次郎さんに、私は胸の奥がポッと温かくなるのを感じた。
それから私がした事は越前のお母さんや菜々子さんから家事を教わることだった。
部活も何もやっていないから帰ってきても暇だし、なにより手伝いでも
やらせてもらわなければ家に置いてもらう資格はない。そう思ったから。
「リョーマさんが帰ってくる時間に合わせて、夕飯を作るんですよ」
私は小さく頷く。
菜々子さんはニコッと微笑む。
「じゃあ一緒に作ろう!」
菜々子さんに並んで料理を始める。
これでも1人暮らしの経験があるから言われた仕事は何の問題もなく進めることができた。
サクッ。
「いっ!!?」
「キャー!!
ちゃん大丈夫!?」
まぁ、たまに自分の指を切ったりもしたが。
ガラッ!!
「ただいまー」
「おぅ。おかえりー」
台所を出た廊下から越前と南次郎さんの声が微かに聞こえる。
私は出来上がった数々の料理を見て安堵の溜め息をついた。
「フフッ。お疲れ様でした。今リョーマさん帰ってきたみたいだから呼んできてくれる?」
エプロンを外してタンタンタンッと軽快に階段を駆け上がる。
その後ろにカルピンもついてきた。
コンコンッ・・・。
「はーい?」
ノックしてすぐに返事は返ってきたものの、扉はいっこうに開かない。
私は仕方なくドアノブを捻って軽く押し開けた。
「・・・失礼します」
「
?」
「ご飯・・・出来たから。じゃ」
「あ。待って」
扉を閉めようとした途端、越前は待ったをかけてテニスバッグの中を漁り始めた。
「これ。今日の帰りに桃先輩に付き合わされたゲーセンで取ってきた」
ポイッ!と平気で何かを投げてきた越前。
私は焦ってそれをキャッチした。
それは・・・フワフワしたウサギのぬいぐるみだった。
おまけにシルクハットを被っている。
ヤバイ・・・可愛い。
「好きでしょ。そういうの」
「えっ・・・?」
「今日あんた、図書室でずいぶんメルヘンな本読んでたから」
「それ・・・だけで?」
「あー。あと・・・なんか怒らせたみたいだったから」
私はもう気にしていなかったのだが、越前はどうやら昼のことをずっと気にかけていたらしい。
「昼は、ごめん」
「気にしてない・・・」
「そっか」
次の瞬間、とても柔らかく笑う越前を見て私は思わずもらった人形をギュッと抱きしめた。
「あっ・・・」
「えっ?」
「やっと笑った」
カァッと顔が熱くなるのを感じて私は越前に背を向けた。
「出来んじゃん。そういう顔」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「そっちの方がいいと思うよ」
私の後ろを通り過ぎると越前は1人先にリビングへ向かい
静かな廊下には私とカルピンだけが残されたのだった。
「そういや
ちゃんは部活何も入ってないんだっけか?」
食事中、南次郎さんに聞かれ私はコクンッと頷いた。
「スポーツは何かやってねぇの?」
今度は首を横に振った。
「・・・なにも」
「じゃあ今度おじさんのテニスの相手してくれよ!リョーマの奴が最近付き合い悪くてさぁ」
大袈裟にしょげた表情をする南次郎さん。
「テニス・・・?」
「ダメだよ。親父」
越前は食事を終えたのか、カチャンっとお箸を置くと席を立って私を見た。
「
はこれからテニス部のマネージャーになるんだから」
そう言うと「ごちそうさま」と一言だけ言い残し部屋に戻っていってしまった。
ちなみにそんな話、私は初耳だった。
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ちなみにウサギの人形は
まんま俺の趣味です。
すんまそん。
2009.2.14