ポタポタポタ・・・と。


なぜだか涙が止まらないの・・・。















cry.2   〜 Don’t cry 〜















ガラガラッ。





「ただいまー。親父いるー?」










玄関を開けてすぐリョーマが大声で叫ぶと、奥の部屋から似た声が返ってきた。










「おー。なんだ今日は早ぇじゃねーか。雨で部活でも中止になったか?」










バタバタと近付いてくる音を待たずにリョーマは返した。










「あのさ。そこの公園で拾ってきたんだけど・・・」
「拾ってきただぁ?おいおい勘弁しろよ。猫か?犬か?」










ガラッ!!










1番玄関から近かった襖が開くと、煙草をくわえたリョーマの父・・・南次郎が顔を出した。










「いや、人間」

「はぁあぁ!!?」










クールなリョーマに比べて、ずいぶん表情とリアクション豊かな人物だった。

何事かと一緒に顔を出したリョーマの母と従姉の菜々子は
の濡れた姿を見て大急ぎで家の中へ上げた。





服も着替え、髪も乾かした と向かい合うように南次郎が座ると
フゥーッと口から煙草の煙を吐き出した。










「リョーマからだいたい聞いた。 ちゃん・・・だな?」










はコクンッと静かに頷いた。










「帰る家がないんだって?」
「・・・はい」
「どういう意味だい。そりゃ?」










その質問に はしばらく黙っていたが、微かに開いた口で細々と話し始めた。










「私に父親は・・・いません。小さいころ事故で亡くしました。

 それから母親は他の男と遊びに出るようになって、ほとんど家になんて帰ってきません。

 住んでいる所は近くのマンションですが・・・

 私が1人になった途端、大家に立ち退くよう言われました。

 頼れる大人は誰もいません・・・。

 それどころか、周りの目が怖くて・・・昨日から家に帰っていません」










部屋の隅に座って話を聞いていたリョーマはギョッとした。
昨日・・・ということはリョーマがぶつかったあの夜から は家に戻っていないというのか。










「何度か家には戻りました・・・。

 でも、私が帰るたびに大家が来たり・・・

 近所に噂されたりして、あまり落ち着けません。

 もうあそこに・・・私の居場所なんか無いんです」










今の は消えてしまいそうなほど小さく・・・弱かった。
南次郎が俯く頭に手を置くと はビクッ!と肩を震わせた。










「リョーマと同じ歳で今まで一人暮らしなんて偉いねぇ。よし!新しく住む所が見つかるまで、うちにいろよ」










は顔をあげると南次郎を真っ直ぐ見つめて固まった。










「・・・えっ」

「どーせ大家にも立ち退くよう言われてんだろ?
 だったらちょうどいいじゃねーか。余ってる部屋があっから荷物まとめてそこに移ればいい」










はうろたえているようだったがリョーマの家族はもうスッカリその気らしく・・・
流されるままに の居候が決まった。










特に従姉である菜々子は自分に妹が出来たようで嬉しいのか、 の世話を喜んで引き受けた。
今は が今日眠る部屋の片付けを女3人でやっているようだ。




















「雨の中、1人でねぇ・・・。だからずぶ濡れだったわけか」

「うん」










南次郎とリョーマは向かい合いながら茶をすすった。










「リョーマ。お前ぇ・・・ほっとけなかったんだろ。 ちゃんがよ」
「はっ?」

「じゃなきゃお前ぇが女の子なんか拾ってくるはずねぇだろ?
 捨て猫とか・・・迷い犬とか・・・そんな感覚で連れて来たんじゃねーの?」










煙草をくわえながら得意気にニヤッと口角を上げる南次郎に、リョーマはムッと唇を尖らせた。










「なわけないじゃん」

「どーだかな」










クックッと肩を揺らす南次郎に、何となく負けた気がしたリョーマは
逃げるように自分の部屋に戻っていった。










ボスンッ!!










電気も点けずにベッドへ寝転ぶとリョーマは天井を見つめながらあの時の の顔を思い出した。















光のない瞳に・・・

力の感じられない肩・・・

そして、誰も覗けない凍った心・・・。





――― 捨て猫とか・・・迷い犬とか・・・そんな感覚で連れて来たんじゃねーの?















「捨て猫・・・」










雨の降る公園にたった1人で身を縮めて・・・。
孤独に押し潰されそうな気持ちをグッと我慢して・・・。
助けに来てくれる人なんていないと分かっていても誰かを待ってる・・・。



あんな姿を見たら、たとえ声をかけずに家に帰ったとしても気になって気になって仕方ないだろう。



だから・・・ほっとけなかった。










「ちぇ・・・」










当たってんじゃん。















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

実際、息子が人間拾ってきたら

「はぁああぁぁ!!?」ってなりますよね。

そこで「じゃあウチに住め」とか

言っちゃいそうな南次郎が好きです。





2009.1.10